高松高等裁判所 昭和26年(う)859号 判決
(1) 当時はインフレ昂進時であり職員の給与の実質的向上を図かる必要に迫られていたのである。
(2) 当時は労働攻勢熾烈であつてその要求(空出張による生活資金補給の要求)を無下に排斥し得ない情勢にあつた。
(3) 昭和二十三年十月頃特別手当、同二十四年二月頃交通手当等を空出張によつて支給した実例があつて、これは本庁(食糧管理局)の諒解の下に全国的に行われた。この際当然出張命令簿、決議書の虚偽記載が行われたのである。
(4) 被告人小河重保が昭和二十四年二月食糧管理局経理課長金城順隆に会い、この空出張の要求について問いただしたところ同課長はこれを制止せず唯会計法により自分でやれと答えた。被告人小河重保はこの答を地方で適当にやれという風にとつたのである。
(5) 接待費関係については徳島食糧事務所には予算として所謂食糧費(交際費、来客接待費に充当せられるもの)の割当なく来客の接待には困つていたのである。殊に昭和二十四年初頃からは来客が多くなつた。
(6) 同年二月中旬頃の会計検査官に対する接待については検査官に同行して来た本庁の係官からも粗末な待遇はしないようにとの注意があつた。そして同検査官のために催した宴会にも係官は加わつていた。
以上(1)乃至(6)の事実を彼此考慮すれば被告人小河重保の前記所為は、いずれも上級官庁(食糧管理庁)から黙認せられたものと信じ、黙認せられたのだから差支ないものと信じて行つたものであり、黙認せられたと信じ黙認せられたのだから差支なしと信じたことは通常の一食糧事務所長としては無理からぬ特別の具体的事情があつたものと認められるのである。故に被告人小河重保の本件行為は客観的には違法ではあるが(上級官庁が黙認しても合法のものとならぬ行為である。又上司が黙認したものとは証拠上考えられない。)右のような錯誤によつて違法性を意識しなかつた点に於て相当の理由があり従つて故意の責任は阻却せられたものと解すべきであるから犯罪は成立しない。そうすると弁護人の結論としての無罪の主張と一致することになる。(以下省略)
(裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 浮田茂男)